1984年インドのポバールという地域で史上最悪といわれる流出事故が起きた。
あまり有名ではないが一晩で2000人、最終的には1万5千人~2万5千人が死亡した大事故だ。
流出したのはイソシアン酸メチルという反応性の高いイソシアン酸塩で常温で気体、微量でも目や呼吸器、皮膚などに深刻なダメージを与える猛毒である。この事故で工場の近隣住民多数が被害を受け、生存者は現在も後遺症に悩まされている。
工場を運営していたのはアメリカのユニオンカーバイド社で農薬を製造するため40t容器3基分ものイソシアン酸メチルを貯蔵し使用していた。事故の経緯としては①製品の性状が思うようにできないため、ラインの水洗浄を実施→②禁水のイソシアン酸メチルタンクに混入し異常反応→③タンクの安全弁(圧力を逃がすための弁)が動作し運転員が気付く→④さらに圧力が上がり33mの燃焼塔から55t流出→⑤近隣住民が被害を受ける。といったシナリオだった。
↑ポバール事故のイメージ図
事故の原因は人的要因、設備的要因と様々だがまさに史上最悪と言える。
①水洗浄の際安全弁へのラインに仕切りを入れるルールだったが無視していた。
②安全弁排出ヘッダがステンレスでなかったため塩化第二鉄が析出、触媒となりイソシアン酸メチルが異常重合反応となった。(プロセスラインでステンレスを使わないのは日本ではありえない)
③イソシアン酸メチルタンクは冷凍機にて0度以下に管理されるはずが省エネのため冷凍機は止まっていた。また温度警報は止まっており異常重合反応には気付かなかった。
④安全対策として除害塔を設置していたが中和するアルカリはなかった。
⑤漏えいガスを燃焼するフレアスタックも設置されていたが配管工事のため使用できなかった。
⑥運転員はタンク圧力が高くなっているのを確認していたが、休憩後に対応しようとしていた。
⑦消防による放水(水吸着により無効化するため)が燃焼塔へ届かなかった。
⑧イソシアン酸メチルの危険性を周辺住民、医師等説明はしていなかった。
⑨そもそも5t程度が管理限度量であったが大量に貯蔵していた。
⑩以前にも流出事故があり内部監査時指摘があったが是正していなかった。
ひとつとして安全対策はとられず。設備も機能していなかった。なぜこのような参事になってしまったのか… 当時安価な別系統の農薬が出回り、ポバール工場は経営危機だったという。
人員コスト、運営コストを削減した結果、このような事故となりリスク管理能力の欠如が間接的な原因といえる。しかし、日本の化学工場にも言える事だが、予算が潤沢にある場合にしか安全対策をしないというのは間違いで経営が傾き安全対策が実施困難となったときその製造工程は近隣へ被害を出す前に停止しなければならないのではないだろうか。